株式会社訪問理美容きずな主催
第五回俳句・ぬり絵コンテスト
選・評 大川畑光詳先生(若葉鹿児島代表)
最優秀賞
月冴ゆるシャネルの香りすれ違ふ
白石 紘一様(八十三歳)
「冴ゆ」は冬の季語で、寒さが極まって、透明感のある状態をいう。大気も澄み切って月も輝くように見えるところから「月冴ゆ」と詠まれる。透明な月光の冴える夜、雑踏で擦れ違った女性からシャネルの香水の香りが漂ってきたのだ。嗅覚を刺激されて一瞬の華やいだ気分が胸をよぎる。シャネルと分かるところに作者の重ねた豊かな人生経験がうかがわれる。艶なる世界を失わぬ人の作品。
優秀賞
かんたろうどこにとぶやらかんがえる
北野 栄子様(八十九歳)
「北風小僧の寒太郞」という子どもの歌があったが、「木枯らし紋次郎」という時代劇が流行った頃で、北風を擬人化したほっぺの赤い子どもが股旅姿で旅をしていく内容だった。掲句はその歌を本歌にして寒太郎と遊んで詠まれた作品である。「さて、いづこへめえりやしょうか」と思案の場面である。そして寒太郎は飛んで行く先々で「冬でござんす」と啖呵を切るのだろう。ひらがなだけの表記も楽しい童話的世界にふさわしい。
特別賞
初雪や今夜は父となりにけり
片山 道子様(八十三歳)
厳かな雰囲気に包まれた俳句世界だ。片山さんの自注には「子供が生まれた時の主人の気持ちを書きました」とある。片山さんの初産であり、ご主人にとっては父親になる記念すべき夜に降った初雪は一生忘れられないものとなった。初雪の度にご主人の父親となった日の顔が鮮やかに浮かんでくるのだ。作句の教えでは「や~けり」と二つの切れ字を使うことは避けるべきとされるが、思いの深いこの句においては許されるだろう。
佳作
コタツにて我輩は猫である
久保 敏美様(七十七歳)
なかなかおもしろい作品だ。作者が炬燵に入って夏目漱石の小説『吾輩は猫である』を読んでいるのか。はたまた飼い猫が炬燵で暖まって「我輩は猫である」と偉そうにしているのか。シンプルな詠み方をしながらも想像を刺激する、俳諧味のある作品。
お正月子どもがたくさんくたびれた
迫 ヤス様(九十二歳)
「来てうれし帰ってうれし孫の顔」という川柳があるが、この句も祖父母なら皆が共感する、実感のある作品。
食べたいな大きなスイカ好きなだけ
水之浦サチ子様(九十八歳)
念願かなって大きなスイカにかぶりつくサチ子さんを想像するだけで元気をいただける作品。
夕空に夕飯を待つ日の長さ
橋口妙子様 (九四)
春の季語の「日永し」は冬の「短日」に対して昼間の時間が永く感じられることをいう。また「暮遅し」は春になって日没時間の遅くなったことに関心が向いた言い方である。作者の夕飯を待ち遠しく思う感覚も「日永し」「暮遅し」に通じているようだ。食欲旺盛な妙子さんはますます長寿を保たれることだろう。